【 第三章 第二話 】
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「傷はもう大丈夫のようですね。」
「ああ、なんの支障も無い。」
ふっと微笑んでカイトはサディウスに答えた。
―――この世界で知られている中では最高位に就く魔法の、
“水魔法・ウィンシャール”や“風魔法・セラシュアル”でも癒せなかったあの傷。
それをキリアは一瞬のうちに後遺症も遺さずに癒した。
唯一つの魔法、伝説とされていた“光魔法”で…。
「…全神の力は、俺達の想像を遥かに超えるようだな。」
カイトはどこか遠くを見つめながら言った。
サディウスも、その力を見せ付けられてもまだ現実味が無かった。
計り知れぬ力を彼女の中に感じつつも、どこか違和感を感じている。
千年前までは世界を治めていたに存在していた『神』。
封印されてもなおその神殿には絶えず結界が張られ、それらが特別であることを表している。
次第に神殿は聖域となり、『神』――特に全神は超越的で究極的な存在とされた。
そして全神封印から千年目。
秩序が崩壊した世界を救わんと、蘇った『全神』が、あの少女である。
全神を始め、神々については古文書に話が遺されている。
しかしそれは稀少なものであり、全神については極僅かにしか遺っていなかった。
―――女神であること。
―――世界の全てを司ること。
―――外見は少女のようであること。
―――四聖神を創ったこと。
―――全てを愛していたこと。
後世の人々が得られたのは、何故かそれだけであった。
肖像画に全神として描かれている人物も銅像に作られている人物も、正しくあの少女。
けれど懐いていた全神像とは違う、あの少女。
…力を全て取り戻していないからだろうか。その違和感の原因は、掴めそうに無かった。
それから…――――
「カイト様…。」
「どうした?」
“聞くべきであろうか。言うべきであろうか。”
サディウスは迷っていた。
カイトはキリアに惹かれ、そしてキリアもまた、カイトに惹かれている。
それはキリアが普通の人間ならば、大した問題ではない。
しかしサディウスが考えていることが当たっているとすれば、大変な問題であった…。
「サディウス?」
突然黙り込んだサディウスを不思議に思い、カイトが名前を呼ぶ。
「……いいえ、なんでもありません。」
まだ言わずにおこう…ただの、思い過ごしかもしれない。
自分のただの考えすぎかもしれない。
その為に、2人の想いを引き裂くことはサディウスにはできなかった。
「キリア様達の様子をを見てきます。直ぐにでも出発するのでしょう?」
その場を取り繕うかのようにサディウスは笑顔で言った。
「ああ…頼む。」
カイトも不審に思いながらも追求しなかった。
「それでは。」
一礼をして、サディウスは部屋を出た。
“―――私が願うのは、あの方の幸せだ。”
部屋を出て、サディウスは静かに思った。
幼き頃よりずっと側に仕えてきた、優しく、そして自分に厳しい王子。
彼は様々な期待とプレッシャーを背負いつつも、弱いところを表に出さなかった。
自分よりも常に人々の事を考える人。
そんなカイトだからこそサディウスは幸せになってほしかった。
そして今、キリアの中に幸せを見つけようとしている。
“それを止めることは、カイト様の幸せを壊してしまうこと…。
私に出来るのはただ見守ることだけ。
もし、もし運命が然るべき方向へ進まないのならその時は…。”
――――サディウス・オリファリア。
カイトの為に生きカイトの為に死ぬことを決めた者の、
新たな決意を、誰も知らなかった。
― 願うものは ―
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