【 第二章 第五話 】
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「カイト、カイトしっかりしてっ!!」
「っ何で私達を庇って自分は大怪我してんだよ!?」
カイトに辛うじて息はあるものの、それはまさに虫の息ほどだった。
どこにどれほどの傷を負ったのかわからないくらい、
たくさんの箇所から止め処なく血が流出す。
“きっとカイトはあの時のフォールの一瞬の攻撃を見切っていたんだろう。
だけどサディウスさんやシアを護るために2人を庇ったんだ…。”
サディウスがカイトの側にしゃがみ込む。
「…ウィンシャール、治癒の水よ!!」
手の平の辺りから、水の塊がいくつも出てきてカイトに降りかかる。
水はカイトの傷口を優しく包み込んでいき、血が、止まった―――
「――――ダメだ!また傷口が開いてくる!!」
「そんなっ!」
「ウィンシャールで治癒されないなどとは…!!」
血は止まらず、どんどん外へと流れ、地面を赤く染めていく。
「一体どうしたら良いんだっ!?」
「く…っ、セラシュアル、癒しの風よ!!」
風がカイトの傷口を塞いでも、また直ぐに開いてしまう。
サディウスが使うのであるから、かなりの高位魔法に違いない。
「何で、何で傷口は塞がらないんだっ!?」
「これが魔族の長のフォールの力なのか…!!」
「私達にはどうしようもないのかよ!!」
カイトの顔は血の気を失い青ざめているが、
その表情は眠っているように穏やかなものだった。
“もしかしたら、本当にただ眠っているだけで……”
「このままだと…危ない!!」
サディウスの言葉でキリアはハッと現実へ引き戻さる。
――――危ない。
“何をバカなことを考えていたんだろう。”
血はどんどん流れていき、カイトの命を確実に蝕んでいっている。
“カイトが死ぬ? いなくなる? 一緒にいられない?”
「せない…。」
「――キリア?」
「っそんなこと絶対にさせない!!私がカイトを助ける!!」
『 パアアアアアアァァァッァァァァァ 』
突然、眩しいほどの温かく優しい光がキリアを包み込んだ。
“助ける。私がカイトを助ける。魔族になんか負けない――!!”
「キ、キリア様!?」
「キリアッどうしたっていうんだ!?」
キリアは瞳を閉じてカイトにそっと手をかざす。
そして、光は更に強さを増し、辺り一体に広がっていく。
「カイト、私が絶対助けるからね。」
突如キリアの額に、今まで無かったはずの印が浮かび上がった。
「サディウス、あの印はまさか…」
「神の証……?」
神の証。
神の額にはそれぞれの印があり、それが神の持つ力の源だと云われている。
そして、他の何ものにもないそれが神を特別なものであると視しているのである。
キリアに本来全神の持つ力が見られなかったのも、印が無かった為だろう…。
“言葉が…浮かんでくる。これが、カイトを助けるための力なの――?”
胸の奥から何かが浮かんでくる。懐かしい、自分だけを思わせる言葉。
“そうなら力を貸して!カイトを助けて――っ!!”
『クレイアースル、生命の光よ!!』
言葉が発せられると同時に、キリアを包んでいた光が一気にカイトを包み込んだ。
その光は優しく傷口を癒し、血の流れを止めていく。
「生命の、光…?」
人間が使えるのは、“火”“水”“風”“地”だけである。
“光”――これを使えるのは全神のみということになるのであろう。
「最高位魔法だったウィンシャールやセラシュアルでも癒せなかったのに…」
「やっぱり、キリアが全神だからってことか…。」
『クレイアースル』
それはカイトのみならず、サディウスやシア、そして周りの自然をも癒していた。
強大な治癒力。全てを元通りに…いや、それ以上なものにしていた。
「カイ…ト…?」
傷は癒えたものの、カイトは目を覚まさない。
できることは全てやった。あとは彼の力に頼るのみ…。
「カイト…カイトお願い、目を覚まして…っ。」
―――その声に応えるように、青い瞳がゆっくりと開いた。
「…キリア。」
朧気な青い瞳に、涙を溜めた緑の瞳が映る。
「カイト――っよかった…本当に、よかった…。」
安堵感とともに零れ出す涙を隠すように、キリアはカイトに抱きつく。
そしてカイトもキリアをしっかりと、強く抱きとめる。
「助けられたな…。ありがとう、キリア。」
「っううん、ううん。カイトが助かったからいい…の……」
「――キリア?」
「カイト様!!」
「キリアッ!!」
サディウスとシアが2人の下へと駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「ああ。2人とも心配かけたな、ありがとう。」
そう言ってカイトは穏やかに微笑む。
「っ礼を言うのはこっちだよ!だけど自分のことも大切にしろよなっ。
お前が居なくなったら元も子もないんだぞ!」
「そうだな、すまなかった…。で、悪いが直ぐ次の街へ向かうぞ。」
「「え?」」
そこで2人は初めてカイトの腕の中のキリアに気がついた。
彼女の体に力が入っている気配はなく、瞳は閉じられている。
「キリア!!」
「シア、大丈夫だ。力を使いすぎただけだから。」
「――額の印が消えていますね。」
「……とにかく、直ぐ出発する。準備してくれ。」
「わかりました…。」
「荷物を、取ってくる。」
2人が離れた後、カイトは気を失っているキリアをじっと見つめた。
―――額に印が現れた。そして“光”を使った。
キリアが全神だという明らかな証拠だった。
それは当然のことであり、いつかはそれが普通になる日が来る。
なのに何故だろう。どこか悲しく、辛い想いがあるのは…。
― 全神の証 ―
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