【 第一章 第二話 】




--------------------------------------------------------------------------------------------------- 一人の少年が一人の少女を抱え、王城へ馬を走らせていた。

少年は18、19歳と言ったところだろうか。少女の方は1つ2つ下のように見える。

漆黒の髪に青い瞳の少年。黄金の髪に緑の瞳の少女。

少女の焦点は定まっていないように見えた。まるで違う世界にでも来たかのように。





「王子が帰られたぞ!」


城門前で見張りをしていた一人の兵士が叫んだ。 それが合図のように、男達が次々と城の中から出てくる。


「カイト王子、ご無事で何よりです!」

若いが、いかにも貫禄のある男が少年に言った。

「しかし全神解放は一体どうなったのです?特に何も変わったようなことは・・・。」

「サディウス、そのことは後で話す。まず彼女を休ませてやりたいんだ。」

切羽詰ったように少年は言う。 そしてサディウスと呼ばれた男は少年に抱きかかえられている少女に気付いた。

「その方は・・・・・・」

――幸せな、時間。 ――貴方の側に居るときが、今までで一番幸せ。 ――このまま時が止まってしまえば・・・・・・・。 目を明けてみれば、とても立派な部屋に居た。 何故こんなところに居るんだろう?私・・・私は・・・。

「起きたか?」

「え?」

そこにはあの漆黒の髪の少年が居た。

「体の調子はどうだ?」

「え、あ、あの、大丈夫・・・・。」

そういうと彼は安堵したように微笑んだ。

「起きたばかりなのに悪いが、千年前のこと、何も覚えていないのか?」

「・・・何も・・・知らない。」

「じゃあ、何も覚えてないんだな?」

「知らない・・・何も覚えてないわ・・。」

「そうか・・・・。」

何も覚えていない。何も知らない。何も解らない。

千年前って何?この世界は?私は誰?

自分のことなのに知らない。そう、自分のことなのに――――。

「千年前・・・千年前何かあったの?私は一体誰で、ここはどこなの!?私は――」

「キリア落ちつけ!大丈夫、大丈夫だから!」

“キリア” 私は、私が“キリア”だと言う名前しか知らない。

いつの間にか私は涙を流していた。今にも不安に押しつぶされそうになる。

「キリア、俺の知っていることを話そう。信じられないかもしれないけど・・・真実だ。」

そう言って彼は少しだけ悲しそうな顔をした。 「まず俺はカイト。カイト・ルーク・トュリアース。地国の第一王子だ。」

「・・・カイトさん・・・・?」

「“さん”は要らないよ。カイトで良い。」

「カイト・・・。」

「ああ。それから君のフルネームは―――――キリア・セレシリスだろう?」

「・・・・セレシリス?」

カイトは頷く。 キリア・セレシリス 懐かしい響きだった。胸の奥が、ぽわっと温かくなる。それが、私の名前・・・・。 「きっと・・・そう。そんな気がする。」 そういうとカイトは微笑んだ、少し複雑そうな笑みで。そして話を続けていく。 「この世界は、まだ全てが混沌としていた頃に現れた“全神”が創ったものと言って良い。

 全神は全てを司り全てを愛した。  そして全神は火・水・風・土を司る四聖神を創り、この世界を治めた。

 ―しかし千年前に異変は起こったんだ。」

「異変?」

「・・・・全神が狂ってしまったんだよ。」 「そんな・・・・・。」 「何が・・・何が全神をそうさせたのかは解らない。

 だけど全神は狂い、強大な力は暴走した。世界は瞬く間に混乱の中に陥ったんだ。

 地は裂けて嵐が続き、世界には光が無くなった。人々は怯え、希望を失った。

 そこに在るものは、失望と変わり果てた世界だけだった。」 「・・・・・・。」 「そしてあるとき、一人の男が現れたんだ。  彼は四聖神と共に全神の神殿へ向かい、全神を封印した。」 「その人たちは、全てを司る神を――封印できたの?」 「ああ。そのことについては詳しくは解らないんだよ。書物も・・・・俺も・・・。  でも彼は全神を封印した。そして地響きが止まり嵐が去り、世界に光が差し込んだ。  四聖神は自らを封印し、神は居なくなり、神の側に就いていた者は天へ移り住んだ。  天と地が分かれたんだ。天では天の、地では地の世界が作られるようになった。」 「天と地が・・・。」 「全神を封印した男は、人々から崇められ王となった。  それが、地国の初代王アーシス・サリム・トュリアースだ。  代々地国の王になるべき者は、不思議な力を持って生まれる。  その力を持つものは、王族の者だけれど王の子とは限らない。  初代王は結婚しなかったから、彼が崩御した後に彼の弟へと受け継がれていた。  ――その力が、全神を解放させる力なんだ。俺は父からその力を受け継いだ。」 「全神解放?何でそんなものが必要あるの?」 「『天と地は分かれた後、双方穏やかに安定するが、いつかまた異変は起こる。』  四聖神はそう予言したんだ。そして四聖神は【王家の力】として、地国の王に  全身解放の力を授けたと言われている。    そう、その予言は全神封印から千年後の今―あたったよ。」 「え?」 「―まだそんなに影響はないように見えるが、今天と地は秩序を失っているんだ。  どこからか魔物が現れ、気候はおかしくなり、天からは行き場を失った天人が  地へ助けを求めてやってくる。地の方がまだ荒れ様は少ないらしいからな。」 「天と地が、混じり始めた・・・・?」 「そうだ。もう人の力ではこの世界は治めることができない・・・・。  天と地の両方を治めることが出来るのは全神だけ。だから全神解放を行うんだ。」 「統率権を全神に返すの?」 「ああ。皆がそれを望んでいる。」 「でも、全神は狂ったから封印されたんでしょ?封印解けても狂ったままなんじゃ・・・。」 「それは――大丈夫だ。」 「大丈夫・・・・?」 「断言は出来ないけどな。少なくとも俺はそれを信じる・・・・。」 「うん・・・・だけど、それが私と何の関係があるの・・・・?」 一番聴きたいこと。だけど一番聴きたくないこと。 でも聴かなきゃ、私のこと。思い出さなきゃ、私のこと――――。 「キリア・・・・俺は全神解放をしに全神の神殿へ行き、そこで全神解放の呪文を唱えた。  それで全神は解放されるはずだったんだ。――だけど全神は封印されたままだった。」 「・・・・・。」 「呪文を唱え終えた後、神殿は強い光に包まれた。俺はその眩しさに目を瞑った。  光が収まった頃目をあけてみたら、そこに君が居たんだ。」 「私・・・・が?」 「俺と初めて会った場所を覚えているか?」 「うん、なんとなくだけど。」 「そこが全神の神殿だ。神殿へは普通の者は入れなくなっている。  入れるのは全神か四聖神、もしくは【王家の力】を持つ者だけだ。」 「・・え・・・?」 「天と地では“キリア”と言う名前を付けては行けない決まりがあるんだ。  全神を尊んでの決まりだ。」 「それってどういう――」 「全神の名前は“キリア・セレシリス”。―――全神は、君なんだ。」 まさか、そんなこと―――― 「っあ―――」 「キリア!?」 ゴメンナサイ ゴメンナサイ ゴメンナサイ ドウカ ユルシテ

コノセカイヨリ カレヲ エランデシマッタコトヲ

キモチガ オサエラレナカッタコトヲ ドウカ
―っ何これ 何で頭の中で声が・・・・っ ゴメンナサイ ゴメンナサイ ゴメンナサイ

ソシテ ダレカ ワタシヲ トメテ

ジブンデハ モウ トメラレナイ ダカラ ダレカ ワタシヲ トメテ

セカイニ ヒカリヲ ミンナニ キボウヲ            オネガイ―
誰?貴女誰なの?何で私の中で・・・・何で―っ ワ タ シ ハ    キ リ ア ・ セ レ シ リ ス ワ タ シ ハ    ア ナ タ え・・・・・・・・? 「――――ア!キリア!?」 「・・あ・・・・」 「大丈夫か!?」 「カイ・・・ト・・・」 声が鳴り止んでいた。 「何かあったのか!?」 「声・・今声が・・・・・」 「声?」 「女の人の、声・・・。」 「女の人の声?」 「キリ・・ア・・・セレシリス・・・。私は貴女だ・・・て・・・。」 それだけしか言えなかった。――それと言うと、私の思考は闇へと溶けていった。 ― 動き出す世界 ―














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